資材活用の難しいアベマキを学習机に。
古きよき日本の原風景、里山。美濃加茂市では、美しい里山を未来に残すための森林づくり、地元の樹木等を資源とした木材利用促進に注力している。その取り組みの一つが「アベマキ学習机プロジェクト」。
木工家の和田賢治さんが指揮を執り、アベマキ材の活用を通したまちづくり・ひとづくりが進んでいる。和田さんが木工の道を目指したのは28歳のとき。量販店で購入した机に水をこぼした際、木ではなく木目調シールを貼った代物だと気づいたことがきっかけだった。「使い捨てにされる安価なものではなく、大切に受け継がれていくものを作りたい」。そう感じたのは、高校時代に父から譲り受けた木の机の存在があった。父から机を受け継ぎ、丁寧に手入れをしながら子の世代へ手渡したい。和田さんはそういったものの作り手になりたいと考え、木工家を目指した。
「資材にするのが難しい、地元のアベマキを活用したい」。2014年に市から相談を受けた和田さんは、山之上小学校を拠点とした「アベマキ学習机プロジェクト」を立案し、市に提案する。アベマキを乾燥させる過程で起こる反りやねじれ、割れを克服するため、当時和田さんが勤めていた県立森林文化アカデミーと岐阜県森林研究所、地元の製材会社で共同研究を行い、試行錯誤を繰り返しながらアベマキの特殊な乾燥方法を確立。その材を使って「上級生がアベマキで学習机の天板を作り、新一年生に贈る」という新プロジェクトが小学校でスタートした。
アベマキ学校机
それから6年。初年度の一年生が、昨年春に晴れて卒業。6年間使った天板はブックスタンドに姿を変え、卒業生たちが抱えて持ち帰った。「しまい込んでしまうものではなく、日常的に使うものにしたかった。机の天板には、傷や落書きと一緒に、6年間の記憶が詰まっています。一人暮らしを始める時、結婚する時、ふとした時にブックスタンドを目にして、幼い頃のことを思い出す。ものと一緒に思い出も大切にしてもらえたら嬉しいです」と和田さんはほほ笑む。
アベマキの天板を使ってリメイクされたブックスタンド
山之上小学校では、アベマキの伐採や製材を見学する学習も積極的に取り入れている。プロジェクトを通してアベマキという地元の資材を使う機会が増えたことはもちろん、子どもたちが地域の資源について考え、どう活用できるのか、地域で働く人と触れ合い、自分に何ができるのかを考えるきっかけになったのは大きな収穫だった。資源を使い、循環させ、人と地域を活性化させる。地域の価値を高める「ものづくり×まちづくり」が今後どう発展していくのか、彼の挑戦は続いてゆく。
【プロフィール】
木工家・和田 賢治
会員制シェア工房「ツバキラボ」代表。地域材活用プロジェクトのプロデュース、家具・クラフト製作などを手掛ける。
アペマキ学校机プロジェクトで第1 回ウッドデザイン賞優秀賞林野庁長官賞、第16 回キッズデザイン賞受賞など、受賞歴多数。
文:吉満 智子