自然も人も、生き生きと暮らす地。
自然豊かな里山で、米や野菜などの農業体験、木の伐採や山林の整備などの森づくり、狩猟、生きものの講座や自然体験学習などを提供する「やまのはたへ」。山村の資源と人が継続的に関わる場をつくるため、酒向一旭さんが2023年に立ち上げた。
美濃加茂市中央部、蜂屋町の里山に生まれ育った酒向さん。大学卒業後、関東に就職したが2010年にUターン。現在の住まいは、築100年以上の古民家。自分で改修を重ねながら暮らしている。室内の家具は、知人から譲り受けた古い家具ばかり。「どんな暮らしをしていたのか、住んでいた人の暮らしの跡が見える生活が心地いい。一緒に生きている感じがします」と酒向さんは話す。庭にはニワトリとヤギ。少し離れたところには農薬や化学肥料を使わずに育てている田んぼや畑を持つ。山には、イノシシなどを捕獲するための罠も仕掛けてある。
あるものを工夫して使う、自然と共に生きる暮らし。そんな里山の暮らしを伝え、次世代へ繋いでいくために立ち上げたのが「株式会社やまのはたへ」。「子どものころ、半強制的に田植えを手伝わされた、少々ネガティブな思い出があるんです。ここではできるだけポジティブに里山に関わってほしい」。大人が農作業を体験する隣で、子どもたちは泥遊びをしたり、生き物を見つけて騒いだり。それでいい、その環境にいることが一番大切だと、酒向さんは笑顔で見守る。「自分の暮らしは自分でつくるもの。家庭菜園を始めてみる、地域の活動に参加してみるなど、それぞれの場所で少しずつ活動が広がると嬉しいです」。一人ひとりの小さな変化が、里山の暮らしを守ることにつながるのだ。
早朝から田畑に向かって作業をこなし、合間でイベントの打ち合わせや地域の仕事をこなす酒向さん。休む暇もないが、いつも生き生きしている。「田舎は住民が少ないぶん、必然的に地域の仕事も多くなる。人と人との距離が近く、“ここで一緒に生きている”という感覚が強いし、自分が必要とされていると感じられる。SNSで好きなコミュニティに属することもできるけれど、多様な価値観の中で生きることも、大切にしていきたい」と酒向さん。幅広い年代が自然と交流し、共生する暮らし。地域全体で子どもたちを見守り、多様性を認め合う温かさも、里山暮らしの心地よさなのかもしれない。
【プロフィール】
酒向 一旭
1984年生まれ、美濃加茂市蜂屋町出身。大学卒業後、関東で営業職に就くが、2010年に地元に戻り、美濃加茂市役所へ入庁。古民家活用や山村振興等の業務に携わる。2023年に退職し、「株式会社やまのはたへ」を設立